マルチパフォーマンス・コミュニティ

今なぜケチャなのか(2018)

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「今なぜケチャなのか〈スマホ vs. ケチャ〉」のリーフレットを発行しました。
リーフレットの画像、そして、リーフレットに書かれた内容をわかりやすくご紹介します。

〈リーフレット〉表面

〈リーフレット〉中面


リーフレットの内容

〈絆の脳〉が生み出す究極のコミュニティ型芸能

世界の人々を惹きつけてやまないバリ島共同体の神秘的合唱芸能「ケチャ」。燃えさかる篝火をかこみ大地に円陣を組んで座る半裸の男たち。「チャッ、チャッ」という鋭い叫び声からなる四つのリズムパタンを組み合わせた猛烈な速度の16ビート。円陣を組んだ男たちは、時には軍陣を成し闘い合う戦士たちとなり、時にはそれに抗する城塞に転じるなど、互いの躰と躰とを組み合って、限りなく変容していきます。このダイナミックな円陣の中に、煌びやかな装束や仮面をまとった男女の踊り手が次々登場し、古代絵巻をエキサイティングに繰りひろげます。

この半裸の男たちの構築する円陣とそこに唱えられる迅速な叫び声のコーラスは、まさに人類の奇蹟です。密集した男たちは、時とともにその気迫と気概を同一化させ、ひとつの新しい生命体に近づいていきます。このとき中心になっている脳の働きは、〈言語性脳機能〉が現れるよりもっと前に生まれた脳の活性で、〈気配〉〈以心伝心〉〈阿吽の呼吸〉などを司る働きです。
その奇蹟の表現の秘密は、ピアノやバレエなどの西欧近代芸術のように専門的な訓練が必要な特殊技能ではなく、誰でも簡単に使える脳と身体の機能を巧みに組み合わせ、息を合わせて演じることで高度な表現を成立たせる「絆の妙」にあります。目に見えないこの〈絆〉を、視え、聴こえ、触れられるものに換え、共同体を知らない世代にも、またたく間にそのすばらしさを体感させる〈絆の科学・技術・芸術〉こそ、ケチャなのです。それは、究極のコミュニティ型芸能といえるでしょう。

スマホは新参の脳の限られた活性に通じるだけ

従来、左脳(言語脳)と右脳(非言語脳)という区分で捉えられていた人間の脳は、実際には大半が左右対称の非言語脳であり、言語脳モジュールは左脳上に増設されたごく一部。

スマホがもたらした利便性は知識、知恵、コミュニケーションなど量り知れない。

しかし、〈スマホ〉が扱えるのは、〈言葉〉のごく一部である〈記号分節〉だけ。これを処理する脳の働きも、左脳の上にアドオンされた〈言語性脳機能モジュール〉という進化的に一番新参の「駆け出し脳」。いわば〈追加部品〉。連続性・渾然性・流動性を扱えない。


ケチャの真髄〈オフライン同期〉

ケチャの驚異の16ビートを成り立たせているのは、近代知の射程を超えた地球生命独特の科学性、合理性に基づく〈オフライン同期〉です。それは、電子機器を同一のタイムコード(クロック信号)で制御して動作を一致させる〈オンライン同期〉とはまったく違い、操作や制御の痕跡さえ見当たらないのに、まるで指揮系統があるかのごとくケチャの一糸乱れぬリズムを実現します。それを電子系の枠組で説明することはできません。
ケチャでは、円陣を組んで座った上半身裸の何十人、何百人の男たちが、「チャッ」という叫び声でつくる猛烈な速さの 16 ビートにのって躰を動かし、姿態や陣形を変化させる演技を繰り広げます。この「チャッ」という声が生み出す16ビートは、互いに異なる 4 種類の「チャッ」という叫び声のパターンを男たちが分担し、同時並行に走らせることによって、理論的には人間に出せる速さの 2 倍のスピードをもつ声のパルス列を実現しています。速度を実測すると、「チャッ」の回数が、最高〔1秒間に12~13回〕という信じられない値に達しています。しかも、この迅速精緻なパターンは、しばしば 100 人をこえる男たちによって、一糸乱れぬ精密さを実現します。
ケチャの円陣は、100 人規模になると直径20 mを優にこえます。〈音〉は、空気中の移動速度が1秒間約 331mなので、円陣の端から端まで伝わるのに約60ミリ秒かかります。10mも20mも離れたケチャの環のメンバーたちには、互いの声は30ミリ秒とか60ミリ秒の時差をもって到着し、それに合わせて「チャッ」を発音すると、1 秒間に12~13回の頻度をもち「チャッ」と次の「チャッ」との間隔が80ミリ秒前後になっているケチャのリズムパターンでは、とうてい無視できないリズムの「ずれ」(時差)が生まれてしまいます。これでは、ケチャの円陣全体のリズムは、混沌たるものになるでしょう。
ケチャでは、指揮棒(光速で移動し事実上時差を無視できる視覚情報によるタイミングの制御)が存在しません。そうした〈オンライン制御〉の射程でケチャのリズムパターンの成立を捉えようとしても、それは不可能です。ところが実際に自分が演じてみると、あの奇蹟のケチャのリズムパターンが自分にもできるということが、理屈抜きで、経験知としてわかってきます。
〈オフライン同期〉の枠組に沿ってこれを説明すると、4つのリズムパターンの担当者が図のように均等な空間分布をなすように、密に座ります。このとき、互いの躰が触れ合う距離にあることが肝要です。それは、〈絆の脳機能〉の働きで〈気配〉というものを互いに感じ合い、通じ合うのをこの〈接近状態〉が可能にするからです。前後左右を密にとりまくケチャ仲間の至近のひとりひとりの放つ〈気配〉が、〈阿吽の呼吸〉〈以心伝心〉というべき効果を発揮しつつわが身を包んでくれます。「隣近所同士」のあいだに、だれが〈マスター〉(主)でだれが〈スレーブ〉(従)かという分けへだて(分化)がなく、よって〈時差〉の生じる仕組がありえない〈オフライン同期系〉がローカルにつくられていることを実感できます。そしてこのローカルな「隣同士」は継ぎ目なく拡がって全体で円陣全体を形成します。これによって、非通信性の生命科学的情報=〈気配〉でひとつにつながった、その内部のどこにも時差を生じることのない〈オフライン同期〉が実現します。これを背景に、巨きなケチャの環全体としても、まるで神業のような〔時差のない同期〕が実際に成り立って奇蹟のようなリズムパターンを実現させているのです。
ケチャを実践してこの〈絆の脳〉の活性を実感しましょう。

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